第5回 第2スタジオ その1
黄瀬和哉と2スタ
大阪のアニメスタジオで原画マンとして働いていた黄瀬和哉と、まだタツノコプロダクションの制作だった石川光久との出会いはTVアニメ『未来警察ウラシマン』の仕事だった。その後、タツノコ制作分室(I.G前身)で制作されたTVアニメ『赤い光弾ジリオン』では初の作画監督も務めた。そして1989年公開の劇場作品『機動警察パトレイバー劇場版』に黄瀬が作画監督として参加することになる。
「あの時は誰もパトレイバーが当たるなんて思っていなかった。俺も、劇場が終わったら大阪に帰ろうと思ってた。」
ところが皆の予想は外れ、黄瀬はI.Gにとどまることになる。次第に作画の人数も増えてきて、手狭になったスタジオを増やすため、2つに分けたのが2スタの始まりだったという。
「制作のスパンの違いもあって、後藤さんを中心にやるのが1スタ。劇場作品をやっている、こっちが2スタという分け方だった。」と、黄瀬は2スタ設立当時を語る。
「あまりに生活態度の悪い俺を、『退職金を作ってやる。会社を興すには取締役が4人いるからお前もやれ』と言ったのは、もしかしたら石川が俺の事を考えてくれていたのかもしれないね。でも“取締役”の名刺の裏にはしっかり“取締られ役”って入っているんだけどね!」
そう言って笑う黄瀬の人柄が、2スタのカラーに繋がるのかもしれない。会社組織としての要素が強まった現在のI.Gの中でも、2スタは本来の自由なアニメスタジオ的な性質のままである。1スタに比べて個性的なスタッフだと言われることが多い2スタ、新人の採用の基準は「一緒に酒を呑んで面白そうな奴かどうかで選んでいます。」とのこと。
「基本的に放任主義ですから、皆で仕事をするのではなくてそれぞれが自分で営業して仕事を取ってくる。俺は、面倒は見ないけど、人をただ見ているのは好きなんで……」
誰に管理されるのでもなく、自分の時間は自分で管理し、自分の責任は自分で取る。2スタでは、自由と責任が同時に与えられているのかもしれない。新人の育成は現在、黄瀬自身では行わず後輩が行っているという。
「俺も前は教えていましたけど、教え方が下手なんですよ。自分はすぐに“こうすればいいんだ”という模範解答を示してしまうけれど、それがどういう理屈でよいのかっていう理由を説明することができない。思考せずに感覚で描いているからかもしれません。I.Gから外に出て活躍している奴から“3年経ってやっと黄瀬さんが言っていたことがわかりました”といわれたりします。絵を人に教えるのは難しいですね。今では、『お前なんてクビだ!ここから出て行け!』って言っても『あっそ。じゃあ貴方の机を屋上に運びましょうか?』って返されてしまいます。(笑)誰も本気にしてくれません。」
2スタ内のやりとりを、黄瀬はとても楽しそうに話す。そんな黄瀬の表情が、2スタの雰囲気を表しているのかもしれない。
黄瀬和哉
クローズアップ2スタ
植田実(作画監督・原画)

出身地:徳島県
出身校:代々木アニメーション学院 東京校
プロダクション I.G所属年数:9年目
作品経歴
■作画監督
テレビシリーズ「地球防衛企業ダイガード」(ジーベック)
テレビシリーズ「女神候補生」(ジーベック)
テレビシリーズ「ラブひな」(ジーベック)
テレビシリーズ「ノワール」(ビートレイン)
テレビシリーズ「シャーマンキング」(ジーベック)
テレビシリーズ「あずまんが大王」(JCスタッフ)
テレビシリーズ「D.N.ANGEL」(ジーベック)
劇場版「テニスの王子様 二人のサムライ THE FIRST GAME」(プロダクション I.G)
劇場版『テニスの王子様 二人のサムライ THE FIRST GAME』で、初の劇場作画監督をこなした第2スタジオの植田実。彼はイラストレーターのいのまたむつみさんに憧れてアニメーターを目指したという。
「小学校くらいの時にはもう絵を描くことが大好きで、漫画家になりたいと思っていました。でも、自分には話を作る力がないので、原作付きのものでも絵が描けたらいいなと思っていたんです。」
中学に入っていのまたさんの作品に出会い、深く感銘を受ける。彼女がイラストレーターになる前はアニメーターをしていたということを知り、アニメーターになって絵を描いていこうと決意する。
所属していた会社が傾いたことをきっかけに、“どうせならレベルの高いところで勝負がしたい”とプロダクションI.Gへ参加。劇場作品『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に以前の会社で動画として参加していたという。
「はじめに2スタに来たとき、部屋の中は小奇麗で、女の子も沢山働いていて驚きました。その時本人から“黄瀬です”と紹介されたんですが、俺が子供の頃に観ていたアニメで作画監督をしている黄瀬さんがこんなに若いはずがないから、きっと別人なんだろうと思っていました。(笑)」と、当時を振り返る。
初の劇場作画監督を経験した劇場版『テニスの王子様 二人のサムライ THE FIRST GAME』ついて聞いてみた。
「I.Gに来て作監をやって5年になるんですが、関連会社の作品などが多かったので始めて“プロダクション I.G”とクレジットされる作品で作監をすることができて嬉しかったです。ようやくここまできたな、と思いました。劇場作品といっても、今までより求められているものの方向性が少し違ったり、クオリティが高かったりするけど、実質的な部分ではほとんど変わらないです。最近では劇場よりも大変なテレビシリーズも沢山ありますからね。ただ、同じ作品でも劇場で観るものとビデオを借りてきてテレビで観るのでは、単純に見える物の大きさが全く違うように観えてしまう。絵で描いている時には小さかったものが、劇場の席によってはずっと大きく観えたり…そういう作り込みの必要性の違いを感じることが多かったと思います。」
『テニスの王子様 二人のサムライ THE FIRST GAME』は植田自身のアニメに対する方向性に近いこともあり、今までの仕事で観たアニメの中でも3本の指に入る程好きな作品だったという。
「フランスの文学的なすごい映像っていうよりもやっぱり、ハリウッドとかの娯楽映画にエンターティメント性に魅かれるんです。綺麗な映像は必要ですが、作品を作っている以上、人を楽しませるっていうのは絶対に外せない要素だと思います。子どもが観て喜ぶ作品というのは、大人が観ても楽しいと思うんです。子ども向けのアニメって、子供向けに大人が一生懸命作っているわけですよ。どんなに馬鹿馬鹿しいものでも、それを大真面目に作っている人がいてそれができている。そういう意味で見ると、子ども向けのものには色んなモノが入っているんじゃないでしょうか。くだらない笑いや、愛と友情、それを恥ずかしげもなくやれる感じが好きなんです。」
アニメーターとしての終わりのないマラソンの中で、“行きたい場所”が少しづつ見えてきたという植田は、今後の抱負として「やりたいことはいっぱいあります。貪欲に色んな事に喰らいついていくのも悪いことではないですから。作監やキャラクターデザインなど“自分の作品はこれだ”と言えるような仕事をできるようになりたいです。」と語った。



