作品紹介シュヴァリエ

第14回 音響監督 郷田ほづみの言葉ありき! 「朝10」

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名前
郷田ほづみ(ごうだ・ほづみ)
経歴
1957年、東京都生まれ。
俳優やナレーターとして幅広く活動する一方、TVアニメの声優・音響監督として活躍している。
声優として参加した代表作にTV『装甲騎兵ボトムズ(主役のキリコ役)』『ハンター×ハンター』『妖逆門』など。音響監督として参加した代表作に、TV『絶対少年』『ふたつのスピカ』『Get Ride !アムドライバー』『ボンバーマンジェッターズ』『メダロット魂』など。現在では「湘南アクターズスクール」を主宰し、後輩の育成にも力を入れている。

——『シュヴァリエ』の企画を聞いてどんな印象を受けられましたか?

これは大人も観られる作品になりそうで楽しみだな、と思いましたね。大人向けというとオタク、マニア向けのように解釈されがちですが、対象を限定せずに、アニメファンではない人や洋画ファンが観ても、楽しめるものになるのではないでしょうか。

——実際はどのように作業を進められているんですか?

声優さんが個人でアフレコ台本を読み、演技プランを作ってきて、アフレコ当日に、アニメーションの絵に合わせて、芝居をぶつけてくる。予想していた芝居と映像の絵が大きく違う時は、そのプランを変えなくてはいけませんが…。

アフレコ作業が始まってから、それぞれのキャラクターが固まるまでは、探りながら声を当てていきました。四人のメインの役者さんにイメージを掴んでもらうまでは、やはり時間がかかりますね。役者はアフレコ用の台本だけを読んでいて先の展開を知りませんから、キャラクター形成に疑問が残った場合は、そのキャラクターにこれから起こること、過去のことを、補足説明として伝えてあげるんです。

また『シュヴァリエ』は大島ミチルさんの音楽がかなり壮大で、大河ロマン的な雰囲気がありますし、絵もすごく綺麗ですから、それに音をうまくのせられるように気をつけています。アフレコで台詞を録って、監督と一緒に音楽の打ち合わせをして、ダビングの時には、その音を再度調整。イメージを音として具現化していく作業ですね。

——今回、キャスティングで特にハマったキャラクターはありますか?

皆さんイメージ通りなんですが、まずテラゴリーですね。声優さんが台本にないアドリブも入れてくれて、いつもそれを生かす形になっています。キャラクターのイメージをさらに膨らませていただけていると思います。あとリアは怨霊としてのスタートでしたが、生前のやさしさや知的な部分が出て良かったと思います。ピョートルの演技も新鮮でした。

——以前、イベントで「『シュヴァリエ』のアフレコ現場はオヤジ祭り」とおっしゃっていましたが、雰囲気はいかがでしたか?

ベテランの方たちばかりなので、安心して任せられます。みなさん個性豊かな方たちなので、それぞれの特徴的でいい部分が出せればいいですね。現場がカリカリするよりも、その仕事を楽しんでやってくれるほうがいいですし、僕自身も仕事は楽んでやりたい思っています。

——時代物なので、言葉使いなども難しいと思いますが、郷田さんの方で何か工夫されているのですか?

日常生活では使わない言葉が多いので、役者さんがちょっと苦労される場合はありますね。ですが、『シュヴァリエ』の世界感を崩したらいけないので、特に子ども向けにもなるようわかりやすく、とは特に考えていません。
監督のイメージしているものを音にしていくのが仕事。監督が意図しているニュアンス等が出ていないときは、私から役者さんからお伝えしてイメージ通りのものを上げるようにしています。

——『シュヴァリエ』の放映をご覧になってのご感想は?

見ごたえがありますね。個人的には、姪がフランスへ嫁いでいて、自分も2年前にフランスに行って、昔からの町並みが残っている場所をたくさん見てきましたし、ベルサイユにも行って来ました。。ですから、完成したアニメーションを見た時、なんとなく身近な感じがしましたね(笑)。背景も美しいし、一視聴者としても楽しんでいます。

——郷田さんは、俳優や、声優としても活躍されていますが、音響監督というお仕事もされるようになったのは、何か意図があったのでしょうか?

自分は、役者としてのスタートが小劇場でしたから、演出家の指示に従うだけではなく、皆でアイデアを出しながら手作りで舞台を作ることが多かったんです。そこでの経験が、演出に興味を沸かせたのだと思います。実際、その後に「劇団湘南アクターズ」という自分自身が演出を担当する劇団もスタートさせました。そんな中で、アニメのことも分かるし、舞台の演出もできるのなら、音響監督もやってみないか、とお誘いを受けたんです。それを是非やってみたいと思ったのがきかっけですね。

——音響監督というお仕事に、声優での経験が生きてくるのでは?

役者の心理がある程度はわかるので、リテイクするときにも、どの部分を修正してほしいのかを、役者さんにはなるべくわかり易く説明したいと思っています。自分の経験では、やり直しと言われても、どこを直したらいいのか分からないことがありました。

また、演技がNGとOKのギリギリのボーダーラインのときがあって、今のテイクでもOKなんですが、もう一度録ったらもっといいものが上がることがあるんですね。役者さんのタイプにもよりますが、芝居や、ニュアンス、滑舌が甘かったら、気になる人もいる。微妙なところを甘くOKを出されるよりも、もう一回リテイクしてもらって、いいものを録らせていただいています。その分、時間もかかりますが、折角なので役者さんもそうしたいと思っている場合が多いと思うんです。やはりそれも、自分が声優の仕事をする時に思ったことを反映しているからなんですね。

——舞台演出とアニメーションのアフレコではどんなところが違うのですか?

作業していく上で、舞台は一ヶ月から一ヶ月半をかけて役者たちが稽古を積み重ね、本番を迎えます。役者の芝居をリハーサルで観て、違うな、と思ったら次の稽古に持ち越して、もう一度し芝居を考えてきてもらうことができるんです。ですがその分、芝居の準備ができても、本番をした後にリテイクはできないんですね。

アフレコ現場というのは役者さんが出してくれた芝居に対して、すぐにその場でいいか、悪いかの結論を出さなくてはいけない。ただ、アフレコで監督が求めているものを役者から引き出して形にする作業は、舞台での演出が求めているものを役者から引き出すのと同じ意味合いだと思っています。どちらも基本的に感情表現ですから、登場人物の気持ちがお客さんに伝わるかどうかなんですね。そういう意味では、ほとんど一緒だと思っています。

——『シュヴァリエ』で音響監督をされた経験で今後、郷田さんのお仕事に生かせそうなことはありますか?

やはり、古橋一浩監督とスタッフとして一緒に仕事ができたことが大きいですね。キャラクターの心情などに関しても、監督の意図はキチンとしていて、説明も丁寧だし、分かりやすい。彼の仕事ぶりを身近で見れたことが、今後の自分の仕事にとって、いい影響を与えてくれるのではないかと思います。

——最後に、『シュヴァリエ』を楽しみに観てくださっている視聴者の皆さんに一言お願いします。

月曜日の朝10時からアフレコがあるので、湘南から電車に乗ってスタジオ通っています。この業界では一番早い朝10時からの仕事を「朝10」というんです。週の初めに朝早くから仕事に臨んでいますが、そんな中でも自分自身を鼓舞できるのは『シュヴァリエ』という作品に、スタッフを初め、原作者、シナリオライターの強い想いがこもっているからこそだと思います。みなさんも、是非ご覧下さい。