2回目となる今回は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(以下、『攻殻 S.A.C.』)シリーズに欠かせない脚本家の一人であり、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(以下、『S.S.S.』)でも神山(健治)監督、櫻井圭記氏とともに脚本を手がけた菅正太郎氏。「『S.S.S.』ではドラマの比重がとても高かった」と振り返る菅氏に、脚本執筆時のエピソードを伺った。

第2回 脚本・菅正太郎「『攻殻 S.A.C.』というタイトルについて僕が思うのは、神山(健治)さんという人です。神山さんから始まって神山さんで終わる、そんな作品です」

PROFILE

名前
すが・しょうたろう
経歴
経歴1972年12月31日生まれ。東京都出身。脚本家。映画『CASSHERN』やテレビドラマ『夜逃げ屋本舗』などで活躍。プロダクション I.G作品では『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『BLOOD+』『シュヴァリエ』などを手がける。実写作品、アニメ作品を問わず脚光を浴びる脚本家の一人。
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 最初に『S.S.S.』の話が来たとき、菅氏は「またやるのか?」という印象だったという。
「嬉しい反面、大変だということも分かっているので……でも誘われれば何としてもやりたいタイトルではあるので、喜び半分、不安半分ですね」

 悪びれずそう話してくれた表情には、一仕事やり終えた達成感と、『S.S.S.』が通り一辺倒なアニメには仕上がっていないという自負が浮かぶ。

「今回は『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(以下、『2nd GIG』)が終わった後だから、公安9課に素子がいないわけです。いなくなった後という設定を完全に無視して1stシリーズと2ndシリーズの間の1エピソードを作る、みたいな発想はそもそもなかったですね」

 外伝的なエピソードでお茶を濁すのではなく、まさに『攻殻 S.A.C.』シリーズの文脈で語られるべき物語に挑む。菅氏が本作の執筆を進めていくうえで苦労したのが草薙のキャラクターだったという。

「ちょっと語弊があるかもしれないですけど、男はわりと分かりやすいんですよ。例えばバトーにとっては素子あっての9課だし。でもそこですぐに素子のところに走るほど素直かというと……実は、素直なんですけど(笑)。でも、その一方で今の9課での役割というか、自分が何をやらないといけないかも理解していて。ある意味その2つの価値観の狭間で揺れている。
 トグサは荒巻の指示でもあるんだけど、自分の理想云々よりも責任感のほうが立っている状態で。今まで一番青かった、正義感に燃えていたトグサというよりも、むしろ荒巻に近い存在になっているというか。犯罪そのものがなくなっているわけではないので、少佐だけを探すわけにはいかない。そういう意味では、バトーよりもはっきりと自分の意思が決まっている。
 でも素子はちょっと違うんですよね。9課から抜け出たというのは、安っぽい言い方かもしれませんけど、ある意味自分を探すためなんです。クゼという男と出会い、彼が実行しようとしたことは彼女にとって一蹴できるものではないし、クゼに対する個人的な感情もある。今自分が行っていることに対して、明確な目的を持てなくなったから9課を出たということもあって。素子がどんな答えを持って、もう一度9課の人間と接するかという部分が、今回一番思案したところですね」

『2nd GIG』ラストの草薙の心理状態をいかに拾って、いかに落ち着かせるか?

 くしくも神山健治監督は、『S.S.S.』のテーマの一つに「草薙素子の再生」をあげている。『2nd GIG』終了時の草薙を、原作コミックス冒頭の草薙に戻すこと。菅氏が最も本作で苦心した点も、この草薙の再生だ。

「明確に(素子の)価値観が変わって9課を出て行ったのであれば、今回の事件に対しても、もうちょっと違う関わり方をしていると思うんですよ。(素子の価値観が)変わっているなら、バトーたちとの関係も、もっとサバサバしていると思います。「あたしはこうなんだから、あんたたちはあんたたちで好きにやんなさいよ」みたいな。我が道をぐんぐん行く。その意味では誰よりも強いので。
 でも今回の素子についてはそういう強さよりも、もう一度自分に立ち返るような部分が見えたような気がしますね。関わっている事件の中に、今後の自分の方向性を決定する何かを探そうとしているというか……必ずしも正義感だけで事件を追っていない感じというか」

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写真は『2nd GIG』第26話「憂国への帰還 ENDLESS∞GIG」より
『2nd GIG』で公安9課を去った草薙はどこに向かうのか? 本作の見所の一つだ。

 そんな菅氏にとっての『攻殻 S.A.C.』シリーズ5年間の付き合いについて尋ねた。

「僕らは半分テニスとかでやる壁打ちの壁に似てるというか。基本、物語に組み込む事件は、神山監督が張っているアンテナから出てきます。いつも議題を出すのは神山監督なので。
神山監督のベースアイデアをもとにディスカッションが始まって、雑談に流れ込み、さんざん雑談をした後で元に戻るというのが神山組の流れです。『BLOOD+』が藤咲(淳一)監督であるように『攻殻 S.A.C.』というタイトルは全てにおいて神山監督です。それ以外の言葉はないですね(笑)」

「『S.S.S.』は今までシリーズを見てきた人にとっては興味深いものであると思います。でも、今まで見たことのなかった人にとって、どこまで見られる作品にできるのかということを神山監督と話しました。この物語で描かれている事件の話になるのかもしれませんが、神山組で言われている地続き感--今の現実世界との地続き感で、描かれているさまざまな問題を見てほしいですね。

もちろん堅苦しくなる必要はありませんが、決して他人事ではない。SFでありながら今の世の中への問題提起をしています。その辺りを見てもらえれば、より深く楽しめるのではないかと思います」(菅正太郎)

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