第5回にご登場いただくのは河野利幸氏。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』第1話「公安9課 SECTION-9」演出、第2話「暴走の証明 TESTATION」の絵コンテ、演出と、『攻殻 S.A.C.』シリーズの最初期より参加しているスタッフの一人。「作品全体を通しての流れにこだわった」という『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』の制作を終えての感想を伺った。

第5回 演出・河野利幸氏「繰り返し何度も見られる作品に仕上がったと思います。見終わったあと、もう一度最初から見たくなるような作品です」

PROFILE

名前
こうの・としゆき
経歴
作画監督・演出家。アニメアールを経て、XEBEC、Production I.Gで活躍。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』で演出を務める。神山組の中枢を担うスタッフの一人。
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『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』の演出を務めた河野氏にとって、100分を超える長編作品への取り組みは初めてではない。本作では、橘正紀氏、吉原正行氏と、河野氏を含め3名の演出家による共同作業で行われた。

「BパートとDパートの後半の演出を行ったのですが、なにぶん自分一人で全ての演出を行うわけではないので、そういう意味で、まず、全体のフィルムの流れを掴むことから始めました。
まずBパートから着手したわけですが、Aパートの流れを受けてのBパート、さらにCパートにつなげるためのBパートはどういう感じがいいのかを考えて。分業して演出を行うと、人物の感情の流れは、パートごとにテンションがバラバラになってしまいがちなので。
いかに一つの流れとしてお客さんに見せることができるか? パートごとの違いを感じさせることなく見てもらうこと。それを第一に考えて演出していました」

河野氏の担当したBパートは、Aパートの流れを受けて、Cパートへとつなぐ、起承転結の「承」の部分。刑事モノでいえば状況を整理しながら、観客をミスリードさせていくところだ。

「結局、Bパートで事件を解決してしまうわけにはいきませんからね(笑)。お客さんから見て、次のシーンはどうなるんだろう、という感覚を持たせたつもりです。9課に謎だった事件の情報が次々に集まってきて整理していく、それは、お客さんにとっても情報を整理していく過程でもあるわけです」

逆プロット作業による物語の構造分析

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(以下、『S.S.S.』)のシナリオは、『攻殻 S.A.C.』シリーズ中でも屈指の情報量と張り巡らされた伏線、多数のキャラクターの登場により複雑なものになっている。このシナリオを演出していくうえで河野氏は、独自に逆プロット作業を行ったという。

「最初にシナリオを読んだとき、これ、このまま読んでも理解し辛いなと思って。物語を、シナリオから逆に、字面で書いてある情報を2~3行ずつ箇条書きにして、箱書きみたいにしていったんですね。 フローチャートみたいにして、それで流れを把握しました。巧妙に流れが作られていることを改めて知るとともに、僕はシナリオ作業に立ち会っているわけではないので勉強にもなりました」

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演出上のメモがびっしりと書き込まれた河野氏の絵コンテ。真っ赤な絵コンテに壮絶な戦いの後を見ることができる。

 河野氏は、今回のインタビューを通じて「1カット、1カットにこだわったというよりも、全体を活かすために、その1カットにこだわった」という言葉を繰り返していた。それだけに、全体を何度も繰り返し見てほしいという想いが強い。

「ドラマがすごいから何度でも見られると思うんですよ。作品によっては、1回見て面白かったね、じゃあアイスクリームでも食べて帰ろうか、というのもなきにしもあらずだと思うんですけど。
『S.S.S.』は、見終えた直後にもう1度初めから見てみたいと思う人もいると思うんですよ。何度も繰り返し見られることが見所です。何度か見ると、今回は作画に酔いしれてみよう、とか、次は3Dに注目してみようとか……見る人は少ないと思いますけど、こういう演出してるんだな、とか見てもらえれば制作者冥利につきますね(笑)」
 テレビシリーズの集大成的なものを作ろうと取り組んだ河野氏にとっての確かな答えがそこにある。

「テレビシリーズではトグサの回を一番担当しているので、新生公安9課のリーダーとなったトグサに共感を覚えます。が、今回はバトーが一番面白いですね。バトーは『S.S.S.』の一つの軸だと思うんですけど、素子と再会してからの複雑な感情や、それが収束していく過程など、バトー目線で見ていくというのも面白いと思いますね」(河野利幸)