作品紹介シュヴァリエ

第17回 3D監督 遠藤誠の言葉ありき! 「融合」

名前
遠藤誠(えんどう・まこと)
経歴
1974年生まれ。
プロダクション I.G作品の3D映像を数多く手がける3D監督。
いままで手がけた主な作品は、OVA『怪童丸』、TVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』、『BLOOD+』、『シュヴァリエ』(2006)など。
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——『シュヴァリエ』に参加したきっかけを教えてください

中武プロデューサーに「なにか3Dの仕事はありませんか?」と営業活動をした際に紹介されたのが『シュヴァリエ』でした。しかも、ヴェルサイユ宮殿を3D映像で表現したい(!)というオファーで、参考資料としてお預かりした書籍やDVDを見て唖然としました。とにかくスケールが大きいことと、彫刻などの美術品・調度品や室内の装飾のディティールの細かさから、さすがに建物全体の表現は無理だと思いました。「これは、どうやって表現しようか……」というところからのスタートでしたね。

——遠藤さんが担当された3D作業について詳しく教えてください

『シュヴァリエ』では、背景として使用するための3Dデータ作成をおこなっています。美術設定や参考資料をもとに、まずはモデリングとよばれる、3Dモデルのデータ作成作業。そして形が出来たら次はテクスチャーです。これは、作成した3Dモデルに色や質感を与える作業で、美術担当の方に描いていただいた絵をテクスチャーデータとして3Dモデルに貼りこんでいきます。最後に、実際に使用されるシーンのシチュエーションにあわせたライティング(朝・昼・晩いずれのシーンなのか)やカメラワークを設定します。他にも、カメラマップという手法で、背景に動きをつけて見せるような作業も手がけています。もともと3Dというのは、アニメーション制作の全工程に関わる作業なので、モデリングを設定作業とすると、そこからスタートして彩色や背景美術といった部分まで手がけます。

この背景を3Dで表現するというのは自分にとってのテーマの一つでもあって、背景を描かれる美術さんの負担軽減という意味も含めて、3Dが担なうことができる作業だと考えています。通常であれば、同じ場所を背景で描くにも時間帯や天候によって明暗や色彩が変化するので、そのシチュエーションの数だけ背景を描く必要がありました。しかし、いったんテクスチャーとしての背景を描いていただいて、3Dデータとして完成させてしまえば、あとは求められるシチュエーションにあわせて対応することができます。この3Dならではの長所を生かすことで、2Dと3Dの融合を図ることが出来るのではないかと考えています。ですので、美術さんとの打ち合わせは時間をかけて綿密におこなうように気をつけました。

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膨大なデータからなる鏡の回廊のシーン。同じ場所でも、時刻の違いやカメラ視点の移動で、受ける印象も変わってくる

——カメラマップという技術について、詳しく教えてください

業界的には特別な技術というわけではないのですが、すでに完成されている2Dの絵に対して3Dのカメラワークを使って動きを表現するという手法です。その見せ方によって、背景にあわせたカメラマップと、3Dレイアウトにあわせて背景を描く2通りのやり方がありますので、ただ使うのではなく、いかに上手く使うかというのが腕の見せどころになってきます。

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第1話冒頭でリアの棺を載せた小船が橋をくぐるシーンで、だんだんとせまってくる橋の表現にはカメラマップ技術が使われ、リアリティのある表現となっている

——「ヴェルサイユ宮殿」という実在する建築物を扱う、むずかしさはありますか?

たしかにヴェルサイユ宮殿は今も存在するわけですが、『シュヴァリエ』の舞台である18世紀当時の姿というのは、大きく違う部分もあって、別のものだったと思います。それを知ることのできる文献が京都大学付属図書館にあって、そういった資料も参考にしながら作り上げています。その文献も日本語ではないので、辞書をひきつつ読んだりと、いろいろ苦労はありました。そうして作りこんだ3Dモデリングデータを作業マシンに読みこもうとしたら、扱えるデータ容量をはるかに超えてしまって、システムごと動作が止まってしまったりしました(笑) 仕方なく、扱うモデリングの分量を減らす作業をしたり、実際の画面としては見えないような部分にはリダクション処理を施すなどトライ&エラーを繰り返しながら、収まるように調整しました。

——遠藤さんが『シュヴァリエ』の作業でチャレンジした新しい試みはありますか?

この『シュヴァリエ』の3D作業では、膨大なモデリングデータをどうやって整理していくか? ということが課題でした。物量としては劇場作品レベルのものなのですが、これをいかにTVシリーズ作品に合った作業として落としこんでいくことを考えました。魅せる作画と魅せる背景、その両方が揃って初めてアニメとして成立すると思っていますので、中途半端なものは出したくない。TVシリーズ作品の背景美術として高いクオリティを維持しながら、どこまで見せられるかというチャレンジをしています。

——この作品に関わったことで新たな発見や得たものはありますか?

王の執務室や王妃の寝室も実は3Dの背景なのですが、さきほどの鏡の回廊とは違った表現を試みています。ただ単に3Dデータのレンダリングをおこなったものを出力するのではなく、さまざまなエフェクト処理をおこなって、2D背景の描き味も表現出来たんじゃないかと思います。このシーンの背景は2Dなのかな? でも3Dにも見えるな、という表現の匙かげんに気をつけました。これらの部屋は常に人物がいるシーンの背景として使われるので、キャラクターの作画と背景に違和感がないようにとの配慮でもあります。

——『シュヴァリエ』のこれまでの作業の中でベストカットを選ぶとしたら、どのシーンですか?

やはりなんといっても、手間も時間もかけた「鏡の回廊」のシーンですね。ぜひ見てやってください。

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「鏡の回廊」天井に描かれたフレスコ画も緻密に再現され、奥行までも感じる仕上がりとなっている

——『シュヴァリエ』視聴者へのメッセージをお願いします

眼を凝らして背景を見てください。意外なところに3D背景が使われていたりします。「あれ、今のは3Dかな?」と判断できるヒントをちょっとずつ残してあるので、それを見つけて、どうやったらその画像が作れるのか考えてみるのも面白いと思います。そうして興味をもって、将来、3D映像のクリエイターを目指してもらえたら嬉しいですね。