IGPX 寺川英和インタビュー IGPX 寺川英和インタビュー

テレビ朝日・朝日放送・名古屋テレビにて好評放送中の超高速格闘レースアニメーション『IGPX』!! 日本のカートゥーン ネットワークでの放送もいよいよ2006年1月からに迫った本作の魅力のひとつが、IGマシン同士の激しい格闘シーンだ。その迫力ある映像を製作する3Dチームのスタッフに『IGPX』の3D映像制作の実際の現場を過程を追って詳しく説明してもらうぞ!

座談会参加スタッフ PROFILE

ヨシダ ミキProfile

Miki Yoshida
3DCGI担当
『IGPX』の3Dチームをまとめる、頼れるアニキ。代表作は劇場『BLOOD THE LAST VAMPIRE』、OVA『怪童丸』、TV『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』ほか

河口 俊夫Profile

Toshio Kawaguchi
3DCGI担当
北斗の拳』でいうと「トキ」。その導き流れる水のごとく。代表作は劇場『天空の城ラピュタ』『紅の豚』『平成狸合戦ぽんぽこ』『人狼JIN-ROH』、TV『風人物語』ほか

山崎 嘉雅Profile

Yoshimasa Yamazaki
3DCGI担当
『蒼天航路』でいうと「李典」 小技仕掛けと色々知ってます。代表作は劇場『イノセンス』、『劇版サクラ大戦』、OVA『フリクリ』ほか

モーション設定作業について 第二回

——マシンの違いによってそれぞれ担当者は決まっているんでしょうか?

ヨシダ:カット数は均等なんですけど、割り振りに関しては得意な部分を重点的に同じ人にお願いしてしまうので偏っているかもしれません。今日来てくれている山崎さんはピットマシンをモデリングして、リグも組んでもらっているというのもあってピットマシンを動かしたらピカイチなんですよ。なので、ピットマシンが出てくると山崎さんにお願いしてしまうことが多いですね。

——山崎さんとしてはいかがですか?

山崎:組み方を間違っちゃったからか、ピットマシンは他の人には扱いづらいようで……仕方ないですね(笑)。

ヨシダ:最初にピットマシン出てきてカメラが回ったところで本郷監督はすごく喜んでましたよね。

山崎:そうでしたっけ。でも、あまり回りすぎると他のシーンと合わなくなってしまうことがあるので、なるべく回さずに効果的に見えるアングルはないかというのが試行錯誤した点です。

ヨシダ:だいたい1レースに1回は出てくるので、けっこうな頻度ですよね。

山崎:最初はけっこう出ていていましたからね。

ヨシダ:途中からピットマシンのギミックも増えてきていましたよね?

山崎:やりがいも増えて嬉しい反面、突っ込まれどころも増えるんですよ(笑)。

——モーションのつけづらい部分とかもあるんですか?

山崎:動き自体はそんなに難しいことはないんですけど、メカの形状によってはどうしても掴めない部分も出てきてしまうんですよ。見た目で全部作業してしまうので、画面上ではっきりとは分からないかと思うんですが、たぶん玩具のような立体物にしてみると明らかに齟齬が出てきてしまうと思います。
 子供たちが見ていて喜んでもらえるような作りをしているとは思うんですね、そのためにもカメラからは見えないところで隙間を大きくしたりとか間を広げてみてうまく補正させてもらっています。

ヨシダ:チェック中も現状で見えていないところを「ここ、見せて」とかって言うと「そこは、ちょっと……」なんていうことがけっこうあって(笑)。いろいろと仕込んであるギミックを少しでも多く見せたいと思うじゃないですか、でも、カメラを引いてみるとメカのパーツがつながっていない部分とかが出てきたりして、どう工夫して見せられるようにするかというところで頑張ってもらっていますね。

——アップのカットが多い気がするのはそのせいですか?

山崎:いや、そういうわけではないんですが、絵コンテの時点でアップが多くなっているので、非常に助かっていますね。あんまり引いたカメラで撮られると大変なことになってしまうんじゃないかな

——ピットマシンの操作はどのようにされているという設定なんでしょうか?

ヨシダ:マサが全部マニュピレーターで操作しているカットがあるんですよね。なので、一応プログラムを走らせているというのではなくて実際に動かしているという設定になるかと思います。ピットにいるクルーの腕の見せ所みたいなカットがあって、マサだから間に合ったというシーンが出てくるんですよ。ピットマシンはレース中3分間しか使えないというルールになっているので、マサが必死になって修理作業をやってタケシが何とかまにあったというエピソードが第18話にあるのでそちらを確認してみてください。

——ピットマシンは何人まで乗れるんですか?

山崎:二人乗りですね。実際にはマサが作業しているカットばかりが出てくるので分かりづらいかもしれませんが、最初の頃にはアシスタントとしてリバーが乗っている場面も出てきたと思います。

河口:後半にはアンドレが乗るシーンも出てきますよ。

ヨシダ:でも、基本的にはやっぱりマサが多いのかなぁ。

迫力の3D映像ができるまで!! [4]

——モーション設定に限らず、現場のスタッフが参考にしている資料はありますか?

ヨシダ:僕自身には特別資料にしているものはありませんね。作ったものをチェックで見てもらって、揉んでもらって返ってくるのが一番自分にとっていい経験の蓄積になると思っています。ただ、リズのマシンが中国拳法の動きをするっていう設定があるので、これは演出の方から資料をいただいて参考にしました。そういう資料が前もって渡されることも中にはあります。とはいえ、最終的には作業者が個人で持っているイメージで作っているとは思うんですけどね。

河口:見た目に迫力があって、おもしろくなっていれば何でもOKというスタンスですね。

ヨシダ:『キル・ビル』みたいなのっていう話もあったような……。

河口:たぶん、チーム・スレッジママのリボン攻撃は『キル・ビル』のイメージで……というような指定はあったと思います。それも、けっこう作業が進んでから出てきた話だったような……。

ヨシダ:何度かチェックに出してそこで指摘された点を修正して、ということを繰り返しているんだけど、なかなかOKが出ないということがあって。そしたら、「これは『キル・ビル』のイメージなんだよ」という話が出てきて、「えー、そうだったのか!」という。それで、映像を引っ張り出してきてみんなで見たっていうことはありました。

迫力の3D映像ができるまで!! [4]

河口:3Dスタッフ全体でこうしようとか話し合いをする機会はほとんどなくて、モーション担当それぞれが、今までに影響を受けた映像が如実に反映されていると思いますね。例えばアクションものが好きな人の担当カットにはやっぱりそういうテイストが入り込んでいると思うし、重厚でオーソドックスな物理法則を重視したい人のカットにはやはりそういう雰囲気のあるモーションになってたりというのが、見ていてわかります。
 山崎さんはスペシャリストとして、テクニカルで難しいところを担当してくれていると思いますよ。スパイラルコースを走らせるモーションなんかは短時間で確実に仕上げてきてくれるんですけど、私にはちょっと真似できないですね。

山崎:自分で仕込んだものなので、解析できているっていうのが大きいと思いますけど。

河口:そういうところもあるにしても、やっぱりスパイラルコースが出てくると山崎さんにお願いしてしまいますね。

ヨシダ:やったことのない部分のモーション付けをしようとすると読解するまでにどうしても時間がかかってしまうんですよ。それで、3、4日かかるところを山崎さんであれば1日でできてしまうとなるとこれは大きな差なんですよね。

山崎:僕が今までにやってきたことの積み重ねだけだとは思うんですけどね。でも、これまでに関わってきた作品では表示系、例えば計器の表示部分だったりカメラマップだったりといった部分の作業をすることが多かったので、こういう系統の作品に関わったのはこれが初めてと言えるんじゃないかと思います。『IGPX』のマシンレースの動きは今まで僕が関わってきた『イノセンス』とか『アヴァロン』での表示系のものを作る作業とはやっぱり大きく違ってきますしね。

——慣れない作業で煮詰まってしまうことはありませんでしたか?

山崎:うーん、しょっちゅうですね。そういう時はコーヒーを飲んだり、休憩したりして違うことを考えるようにしていました。一度離れてみないと気持ちと頭の切り替えがうまくできなくなってしまうんですね。ちょっと間をあけるだけで、新しいひらめきが生まれてくるようになるんです。

——『IGPX』において3Dカットのウェイトはどれくらいなんでしょうか?

ヨシダ:最近では全体で300カットあるうちの100カットくらいは3Dカットになってきているんです。今までI.Gでやってきた作品でここまで3Dカットにウェイトのある作品はなかったと思います。一番多かったのは第21話で約150カットですね。これだと全体の半分は3Dで作業している計算になりますね。この話数はやっぱりカット数が多かったこともあって見応えがありました。その分、作業量が多くて苦しくもありましたけど。

——3Dにとって、ゆっくりとした動きとスピード感のある速い動きと、どちらの方が得意ということはあるんでしょうか?

ヨシダ:ツールとして3Dにとってどちらが得意だということはないと思います。ただ、速い動きがすごく上手な人がいてスローのカットもお願いしてみたら、期待通りにはあがってこなかったということがありましたね。本人もスローのカットに苦手意識があったみたいで、やっぱり3Dツールを使う人間の個人差ということになると思います。

河口:僕は3Dの世界にはそんなに明るくないんですが、『IGPX』に関してはフル3Dだけで完結してきた方にはちょっと馴染みのない世界かもしれないなとは思いますね。それはやっぱり2Dの部分との合成がある作品で、3Dもそれに引っ張られるところがあると思いますし、絵コンテの描き方なんかはまるっきり2Dのやり方を踏襲しているわけですから、3Dと言いながら2Dテイストの強い作品なんです。
 ですから、外注の方にお願いしに行く時には「これは3Dと言いつつ構成の仕方は2Dです。3D空間の立体の中では構成の仕方が破綻していても見え方に整合性があればそれでOKです」とはっきり伝えるようにしてるんですよ。

ヨシダ:確かに3D空間上で見るとマシンのシルエットがグダグダっとしているところはあるんですが、カメラを通して見るとものすごくかっこよく見えるんです。

河口:カメラから見てかっこよく映るようにすると、上から見るとものすごくおかしなことになっているというのはいっぱいあるんですよね。

ヨシダ:大きく、激しく、かっこよく。この3つをやろうとすると決まられたリグの中の動きだけだとだんだんと物足りなくなってきてしまうんです。やっている自分たちも物足りなさを感じてしまうので、見ているお客さんたちにはもっと物足りない気持ちがあるんじゃないかと思うんですよね。

迫力の3D映像ができるまで!! [4]

——ご自身の作業されたカットも含めて作品のできあがりを見ての感想はいかがですか?

山崎:人それぞれ、いろいろな癖が出ていて、見ていておもしろいなぁと感じますね。ヨシダさんの担当カットも見ていると個性があって勉強になるなぁと思っています。一目見たらヨシダさんのだって分かりますからね。本人のキャラクターが作っているものにも入ってきていると思いますね。

ヨシダ:僕自身はどこがそういう風に感じられているのかわからないですけどね。

河口:僕からすると、3Dでありながら2Dイメージをどう重ねていけばいいのかという部分をヨシダさんはものすごく早い段階で分かっていたと思います。そういう面でヨシダさんの3Dチェックには安心感があって、助けられている感じですね。絵を描いてみようと思わなかったのかなぁと思って聞いてみたことがあるんですけど、おそらく2Dでやってもかなりのところまで行ける素質はあるんじゃないかと実は思っているんです。

ヨシダ:でも、残念ながら絵が描けないもんですから(笑)。

河口:そういう疑問が沸いてくるくらい、2Dの「ハッタリをかます画面構成」というものをよく分かってると思うんですよね。正確に映像を再現させるというのが本来の3Dの良さじゃないですか、でもそれを2Dの立場からも逆算できるというのがすごいと思います。そういう逆算は2Dのアニメーターであってもなかなかできないことだと思うんですよ。『IGPX』のモーションの中でひとつの中心となるテイストを作ってもらえたと思っています。
 2Dだとアニメーターの癖みたいなものが見ていて分かって、そういう部分で固定のファンを獲得しているアニメーターもいるわけだけれど、3Dに関しては計算された動きをつくることが多かったせいで、そういう展開はなかなかなかったんですよね。ところが、『IGPX』に関しては何でもありだというところで、瞬間的に一枚、二枚だけ違うサイズの絵をスケールで入れてしまうとかっていうこともありなので、おもしろがってやってくれるスタッフも多いんですよね。だからこそ、担当してくれた人間の個性がはっきり画面にも現われてきているんじゃないかな。