作品紹介イノセンス

2004年1月4日(日)

本日より2週間、Skywalker Soundにて音響作業。
アメリカです。遥か海の向うです。泣いても喚いても届きません。
というわけで、このコーナーも2週間お休みです。
ナニか変わったことがあれば知らせがくると思いますが、そういうときは大抵ロクな知らせではないので、ナニもないことを祈ります。

(これ以降1月4日(日)~16日(金)までのテキストは、音響作業に同行していたスタッフのレポートによるものです)

11:00に押井監督・若林氏(録音監督)・井上氏(整音)の3名がサンフランシスコ空港へ到着。入国時に引っかかるかもと心配していたデジタルベータカム素材の持ち込みも特に問題なく、宿泊先のサンラファエルのホテルへと向かう。ホテルに到着して休憩後、監督の部屋にて取材撮影。取材後、ホテルから車で30分ほど北にあるサウサリートという港町にて食事と買い物。18:00すぎにホテルへ戻る。

2004年1月5日(月)

7:30起床。西海岸なのに今朝はとても寒く、ホテルの日陰に駐車したレンタカーの窓が凍りついていたほど。10:00にスタジオに入り、改築されたスタッグシアターにてスタッフ全員に挨拶をして、まずはR-1からR-3の試写を行う(「イノセンス」は全7巻にリール分けされています)。予想以上の完成度に押井監督はかなり満足の様子。その後、監督・若林氏・井上氏監修の中、R-1とR-2のフォーリーミックス開始。途中、作業の合間を縫ってRandy Thom(サウンドデザイナー)とMichael Semanick(リレコーディングミキサー)の取材などが入りつつ19:00に作業を終了。

2004年1月6日(火)

7:00起床。今日は30分繰り上げて9:30にスタジオ入り。昨日中断したR-2のフォーリーミックスの続きから開始。その後、R-3、R-4のフォーリーミックスを開始し、Randyが手掛けたR-4のサウンドデザインを別室で試聴。監督からの変更希望点を伝えてから昼食。ミックス作業の期間中は毎日13:00~14:00がランチタイムとのこと。昼食の間、取材組は収録用の映像として、バセットの足音や円柱形データのフォーリーを再現しているシーンなどを撮影。19:00に本日のミックス作業終了。

2004年1月7日(水)

R-5のフォーリーミックス終了。未完成カットが多々含まれているR-6とR-7はフォーリーのミックスが困難な状況なため、いったんR-1に戻って今度はFX(エフェクト)のミックス。アメリカではフォーリーのエディターとFXのエディターとサウンドデザインのエディターが皆違うため、そのつどスタッフの入れ替えをします。フォーリーのエディターであるJonから、FXのエディターであるScottにチェンジ。

途中、Skywalker Soundの社長のGlenn Kiserが挨拶にきてくれました。

2004年1月8日(木)

7:30起床。本日はR-2、R-3のサウンドデザインのミックス。途中、ILMの社長のJim Morrisがスタジオを訪問。一度日本のI.Gにも訪れたことがあるそうですが、押井監督とは初対面のため挨拶を交わされました。

今日の作業で一番時間がかかったのが人形の足蹴りシーン。井上氏からのリクエストで、足蹴りを180度回転で右後方から左後方経由前方へのパンニングとのことで、Skywalker Sound側も四苦八苦。苦労の甲斐あり、結果的には素晴らしくダイナミックなミックスが完成。

2004年1月9日(金)

今日の天気は雨。予報では晴れると言われていたのに、明日の石川社長(雨男)の渡米を期してか朝から大雨。

今週の作業終了を祝してRandyと共に夕食。

2004年1月10日(土)

石川社長が現地入り。押井監督は10:00からイギリスBBCラジオの取材。ホテルの近くのモールに買物にいく途中、駐車場で迷子なってホテルに到着できずにいた石川社長チームとばったり遭遇。石川社長にはホテルまでの行き方を案内し、その間、押井監督は犬グッズのお買物。1時間ほど買物してからホテルに戻り、石川社長チームと我々とで車2台に分乗し、サウサリートでさらに買い物。

2004年1月12日(月)

今日は石川社長もスタジオ入り。R-4のミックス作業。午後、George Lucasとご対面する機会あり。

2004年1月13日(火)

スタッグでの作業は順調に進み、特に変わったことはなし。

2004年1月14日(水)

今日は、劇中のバセット声を担当してもらった犬のRubyがスタジオに登場とのことだったので、少し早起きしていつもより早い9:00にスタジオ入り。

2004年1月15日(木)

昨日届いたR-6のフォーリー作業から開始。まだ絵が完成していない部分があるためフォーリーのタイミングがわかりにくかったのですが、最終調整は日本で井上氏にお任せということで簡易的なフォーリーミックスを完了。

午後はR-6の環境音とサウンドデザインに入り、残すところあとエフェクツのみ。なんとか無事明日までには終わりそう。18:00ごろにSkywalker Soundからワインサービス。石川社長最終日ということだったのでGlenn Kiser社長から意外な差し入れ。皆、作業中だったのですが20分ほど休憩をとって赤ワインとチーズで乾杯。記念写真も一緒にとって楽しい一時を過ごしながらほろ酔い気分でミックス作業。通常どおり19:00に作業終了。

2004年1月16日(金)

最終日。昨日終わるはずだったR-6の残りから始め、R-7のドア音の新しいサウンドデザインをミックスして完成。

George Lucasのオフィスから、先日贈呈したジグレーを気に入ってくださったとのことで、ぜひともギャラリーに飾りたいという、うれしいお知らせが入る。また、現在「Star Wars: Episode III」を制作中のJAK Filmsのスタッフたちが押井監督に会いたがっているとのことで、ランチの時間を使ってスタジオ訪問することに。「イノセンス」のミックス中だと知ったスタッフは少しでも見てみたいとのことで、17:00からのR-6のプレイバックにご招待。

19:00にはすべての作業が完了。Skywalker Soundの皆様方とお別れのご挨拶。皆様大変お疲れ様でした。明日は6:00起床でサンフランシスコ空港8:30到着予定です。

2004年1月20日(火)

日本にてサウンド最終ミックス開始。いよいよ大詰め。
電話の向う側では時差ボケでヘロヘロだったカントクも、映画の最終仕上げに望んで気合十分。
東京テレビセンター407号室のテーブルには、オムスビやパン類、スナック菓子やら飲料水を始め、音響の井上氏の好物である各種イカのおつまみも山と積まれており、準備万端である。
絵の方の準備は?などというツッコミは、この際なしだ!
すでに勝ち目は見えているが、完全勝利に向けてラストスパートだ!!

途中、六本木ヒルズで行なわれるイベントの打ち合わせのため、川井氏が見える。
こちらも楽しみな催しではあるが、オールナイトイベントなので、そのころまで体力が残っているかが不安といえば不安なり。
もちろん、フィルムが間に合わないかも……などという不安はありませんよ。

2004年1月21日(水)

雑務に追われ、夕方になって東京テレビセンターに行くと、すでに本日の作業半ば。順調順調。
効果音の不足を補うためにと、カントクの指示でスタジオからマシンガンを持ち出してきたら、周りの人々の目の白いこと黒いこと……。
特に、行きがけに立ち寄ったスタジオジブリの前で車のトランクを開けたとき、たまたまそばを通りがかった自転車のおばちゃんは、黒光りする一物を目にしたとたん、急ブレーキをかけてコケそうになった挙句、不自然に道の反対側まで避けて行きましたよ。今後のご近所さんのスタジオジブリに対する見方が変わるかもしれませんね。

「お前もダイタンな奴だね」

「カントクが持ってこいって言うからでしょ」

「ムキミでぶらさげてこいとは言ってねぇだろ」

はいはい。悪いのはまたしても俺なんですね。

2004年1月22日(木)

長らく東京テレビセンターに泊り込みで作業していた若林氏も、今日は一段落ついて帰れるだろうということで、カントクの深夜の帰宅便は若林氏にお願いできることに。
雑務が死ぬほど立て込んでいるので、遠く隅田川のほとりにある東京テレビセンターまで運転して行かなくて済むのは助かるなぁ……などと思っていたら、夕方カントクから不幸の電話が。

「やっぱり来てね」

なんの装飾もないこのひと言で、一路東京テレビセンターへ向かう破目に。いつものことです。
またしても帰れなくなった若林氏の方が、ずっとタイヘンに違いない。

「ついでにユンケル1ダースね」

先は長いというのにもうドーピングかよ、などと思いつつ、重い体に鞭打って車を駆る。

東京テレビセンターに着いて2時間ほど。カントクとギャーツクやり合っているうちに、本日の作業は終了。
……あれ? ……ということは……?

「やっぱ若に送ってもらうから帰っていいや」

今月一杯。あと10日間の辛抱だ。
自分に言い聞かせる毎日です。

イノセンス 東京テレビセンター407号室にて
(東京テレビセンター407号室にて)

2004年1月23日(金)

朝からバタバタして打ち合わせの時間に遅れると、東京テレビセンターに居るカントクからお叱りの電話が。

「早よ来い」

いつまで経っても終わりの見えない仕事を無理やり打ち切って東京テレビセンターに。
音響作業だけは順調で、心が安らぐなぁ……などと思っていたら、深夜、終了直前にミスが発覚。カントク、今からだと修正が間に合いそうもないんですが……。

「直さなきゃダメだかんね」

昨日ダースで買ったら1本おまけだったユンケルが、残り5本になっていました。
1本もらってスタジオに戻ることにします。

2004年1月24日(土)

間に合いますかと問われれば、もちろんですとお答えします。
単に間に合わせるだけなら後一歩の所まできています。
しかし、今回の目標は完全勝利です。
試写予定日までの残り日数は、編集とラボ(現像所)の間の複雑な手順と物理的作業時間によって大幅に削られ、現場で使える時間はごく僅かしか残っていません。
最大の難関、時間的制約との戦いです。

「やるって言ったらやるのだ! ナニがナンでもやれ!! さぁやれ今やれすぐにやれ~!!!」

こんなに諦めの悪いカントクは初めてです。

2004年1月25日(日)

ひととおりプレミックスも終わり、全巻音付きプレビュー。
石川氏とスタジオジブリの鈴木氏も並んでチェック。もちろんカントクも。いまさらですが、作品が濃ければメンツも濃いと実感。

多少の調整はあったものの、特に問題なし。明日からは最終ミックスに突入。

作業の合間を見ては各種原稿のゲラチェックなど。
以前よりも明らかにペースダウンしているようですが、やはり疲れてきているのでしょうか?

2004年1月26日(月)

カントク倒れる。

いや、酔っ払ってコケただけですけど。

2004年1月27日(火)

東京テレビセンターに居るカントクあてに、スタジオジブリの鈴木氏より差し入れが届く。

5ケースの「リポD」……250本……と、同スーパー(タウリン2000)。

一昨日、カントクが「なんだ手ブラで来たの?」などと言ったことへの報復だと思われます。
こんなにたくさんのリポDを見たのは初めてですが、あまりうれしくありません。

2004年1月28日(水)

6.1chミックス最終日ということで、取材あり。
川井氏、ビクター石川氏、モーターライズ佐藤氏が来訪。
作業と来客の合間に原稿のゲラチェックなど。

明日は2chのミックス作業を残すのみ。これが済めば、デジタルのマスタリングと音ネガの作業ですが、これらは技術さんにお任せするしかありません。

いよいよ見えてきた映画制作のゴールライン。
帰りの車中で爆睡するカントクの頭の中には、今もオープニングテーマがエンドレスで鳴り響いているのでしょうか?

2004年1月29日(木)

ミックス最終日。滞りなく終了。
吐息に青みがかったカントクですが、来週からは怒涛の宣伝展開が始まります。
明日は熱海に帰って、ガブのにおいを心ゆくまでタンノウしてくださいな。

2004年1月30日(金)

Domino最終日。絵作業の方も、これにて終了。
まだやってたのか!とか言わない。

制作だけはあいかわらずバタバタと奔走し続けていますが、カントクは熱海に帰ってしまったし、ほかのスタッフも常駐組以外はすでに去り、スタジオには祭りの後の静けさが。

もう少し、あとひと踏ん張りです。