イラスト:西村博之

ティム「どいてっ!!!」
走り出したティムに突き飛ばされ
崩れた体制を立て直そうとあがいてみたものの
自分のすぐ後ろにリノがいたことを思い出し
まきこまないよう、スティーブは潔く床に転がり
後頭部から鈍い音をたてた。

スティーブ「いっっっ……あーのお嬢ちゃん、榊のことになると、めーちゃくちゃするよなぁ」
目に入った天井の照明のまぶしさに、目を細めて小さく呟くスティーブの頭を
心配げな表情のリノの小さな手がなでる。

スティーブ「あー、大丈夫、大丈夫、リノはティムと違って優しいから好きだよ」
寝転がったままリノの頭をなぜ返し、小さな反動をつけ
スティーブ「よっ」
とむっくり起き上がる。

心配げにスティーブを見つめるリノの小さな手はまだスティーブの頭をなでている。
そんなリノをかわいらしく思い、いたずら半分、期待半分、
つい言い慣れた言葉を言ってみた。

スティーブ「10年後くらいで良いんだけど、俺と一緒に暮してみる気はない?」

10年先を求められ、返答に窮したリノが、
目を伏せながらふるふる小刻みに首を振り始める。
スティーブ「嫌?」

スティーブの問いに横に振った首をコクコクと縦にうなずき直し、
スティーブ「俺のこと、嫌い?」
と問われては横に振ったりと小忙しい。

スティーブの投げかける、からかいを含んだ問いが続くにつれて、
リノの首振り運動は激しさを増し、
しだいにリノは自分が何に困っているのか、
どうして首を振り続けているのかも解らなくなり泣き出した。

泣かすつもりは毛頭無かったスティーブが、突然のことに慌てふためき、
矢継ぎ早にいろいろ言う。
スティーブ「そんなに俺のこと嫌い? 違う? え? 気分が悪くなった? どっち? 何? 泣くなよ? あぁぁ」

そんな折、背後から伸びてきた手が、スティーブの肩を軽く掴んだ。
スティーブ「誰? なんだよ?」
小さく舌打ちし、リノの涙をそっとぬぐってやって、後ろを振りかえるその瞬間、

スティーブ「うをっ?!?……」
横っ面に重量級の拳を叩き込まれ、スティーブは床の上にブッ飛ばされた。
クラウディオ「リノに何てことするのよ……このバカ男が……」

そう呟きながら振りぬいた拳をおさめたクラウディオが、
泣き続けるリノを小脇に抱え、休息室を出ていった。