作品紹介サーヴィランス 監視者
最近、ジムの目が虚ろだ。原因はハーディのハードトレーニングとエドのディープ孫自慢。このままでは実戦に出る前にジムがつぶれて、いや、つぶされてしまう。隊長として、今のジムに俺がしてやれることはただ一つ。
榊「ジム、今のお前に必要なのは、疲れを癒してくれる温泉だ」
そう言ってジムを呼び止めた俺は、温泉の素をそっとジムに手渡した。
ジム「へぇ」
興味無さ気に手元の温泉の素を見つめ、腑抜けた声で答えるジム。
ジム「白い……粉?……ですか?……」
袋の中身を見つめ、不可解な言葉を発するジムに、温泉の素“ベップ”の効能を教えてやろうとした俺の背後から、アマンダが興奮気味に割り込んで来た。
アマンダ「私、温泉知ってます。熱湯に全身を浸しつつ、体内の8つのチャクラをを練り鍛えて忍びの極意を悟る荒業のことですよね!!! 日本の秘術がこんな小さな袋の中に詰めこまれているなんてすばらしいです!!!」
榊「え、えぇ? いや、それは全然違うんだが……」
ティム「やだ、違うわよ、アマンダ」
最近、妙に神出鬼没なティムがふいに現れ、アマンダの手から温泉の素を取り上げてうれしそうに言う。
ティム「温泉はね、紙製の専用網で捕獲した熱帯魚の漁獲高を競う競技場の名称なの。ちなみに水着を着るのが礼儀なんだって。そうですよね、榊さん?」
アマンダ「水着なんですか? 白装束が正装だと思ってました」
榊「お前たちなぁ……全然ちが……ん?」
あまりにも間違い過ぎた皆の日本観に反論する気も無くなってきた俺の横で、ボンヤリしていたはずのジムが小さく反応するのが聞こえた。
ジム「…水着…」
おっ、男として良い反応だ。
ジム「……水着……ですか……水着、良いですね、ヘヘヘ、そうかぁ、水着かぁ、フフフ」
ジムの虚ろな目にみるみる光が戻ってくる。
が、俺としては伝統ある日本のイメージがメチャクチャにされそうで、皆の誤解を解く必要性もあるかとは思ったが、ジムのためにも美しい誤解は必要だし……うーん……しかし、今は母国よりもジムが大事。すまない日本、と心の奥で母国に謝り、大声でみんなに言っておいた。
榊「確かに水着は温泉の身だしなみの一つだ」
……ふっ……俺も変わったな……。