イラスト:西村博之

訓練室を出るニックと入れ違いに、普段は訓練室にも近寄らないはずのクラウディオが現れ、流れ落ちる汗をぬぐっていたジムの背後に、気配を殺してそっと立つ。

クラウディオ「ハーディは……アマンダがお気に入りのようね」

突然頭上から降ってきた声に飛びあがったジムの目が、クラウディオの姿を捉える。

ジム「あ、クラウディオさん。お疲れさ……」

ギロリ、と音が聞こえるような睨みをきかせてジムを見下ろす。

クラウディオ「挨拶はいいから私の質問に答えなさい」
ジム「は、はぁ」

と完全に気迫負けのジム。

ジム「あ、アマンダは優秀ですし、負けん気が強いですから。鬼教官の異名を取ったハーディとしては、頼もしい生徒なのでは……と思っています」

素直に答えたジムのシャツが悲鳴を上げる。
ギュユユ。同時にジムの息も詰まる。

ジム「ぐるじ……た、たすたす……うぎゅう」
クラウディオ「あんたも一緒に訓練しなさいよ」

シャツの襟ぐりを絞りつつ、よじれた布地以上の軋む声色のクラウディオ。

ジム「い、いや、僕スタミナが無くてついてけないんで……」

息も絶え絶えにジムが返すと限界以上の力を加えられた布が、声無き悲鳴のような微かな音をたててなお一層裂けていく。

クラウディオ「根性でなんとかなさいよ」
ジム「こ、こここ根性だけではできることとできないことがゅう、ぎゅむぅ……」
クラウディオ「へぇ……そんなこと言ってると……このシャツみたいになるのはジム……わかってるわね……」

重低音で囁き、ジムを一瞥してクラウディオが立ち去った後、ズタズタに裂けたシャツの残骸を見つめボンヤリと座り込むジムの肩を、いつ戻ってきたのかニックが優しく叩き、ボソリと言った。

ニック「1人で頑張れ」